香港映画「トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦」を観に行った日記兼感想の記事です!
映画の内容についてのネタバレがございます。また、作品内容に伴ったデリケートな歴史的背景にも少々触れますのでご注意くださいませ。
お友達のちょびひげ丸ちゃん(以下、ちょびちゃん)に激推しされたは良いものの、託児の都合で映画館は難しい…と言うと「子ども達は私が預かるし、終わった後に叉焼飯が食べたくなる筈だから作っとくね💪」と送り出された次第です。 超至れり尽くせりコースでおもてなししてくれたお友達へのささやかな御礼として、新鮮な感想をしたためました。
まず、おもてなしがすごかったので先にそちらを紹介いたします
トワウォ視聴直後にドン!出ました、叉焼飯です👏
陳洛軍が龍兄貴に叉焼飯を奢ってもらうシーン、素敵でしたね。
「卵もつけろとか言うなよ」との例のセリフと共に振る舞われました🙏

美味しい!!!!
中華街で仕入れた本格的な調味料を使用しているだけあって、豚肉のジューシーさを引き立てつつ仄かな甘みがエキゾチックな味わいを深めています。料理上手スゴイ…!しかもボリューム満点です。2~3日分くらいのカロリーを一食で摂取した感があります。
写真中央の瓶は「メイクェイルーチュー(玫瑰露酒)」というお酒です。中華街で購入してきたものとのことで、ご相伴に預かりまず一口ストレートで頂いたところ、強…!しかしフルーティな香りがギュッと食道を爽やかに燃やしてくれるので、スッキリしたいときにはもってこいなのではないかと思います。なんとなくライチに近いような香りだと感じましたが、調べたところ主原料はハマナスの花だそうです。私はアルコールに弱い方ではないのですが、54度だったので流石に割りました。しかしそれも素晴らしく、現地購入したジャスミンティーで割ったので玫瑰露酒の香りを損なうことなく楽しめました。ハマナスとジャスミンですから、もはや液体の花束のようなものです。
そして食後に見せて頂いたお宝がこちらです!

左は現地のグッズショップ限定販売の登場人物イメージ香水のひとつ、「龍兄貴のかおり」です!!ちょびちゃんは狂っているので(褒めてます)、タイトスケジュールの中、日帰りで聖地巡礼をしてきた際に購入してきたそうです。ありがたいことに嗅がせていただきました。これも甘い…!
一緒にかがせて頂いたカブト氏曰く、「包容力のある男のにおいがする😍」とのことです。くんくん
そして右は九龍城砦の大判図説本です。ざっと拝読しましたがこれがまた興味深いことばかりで、調査隊の記録を元に制作された非常に細かい建物断面図イラストがあったり、生活・文化や歴史など写真と共に細やかに記されておりました。記載事項で更に興味をひいたことも幾つかありましたので、感想と交えつつ後述します。
少々の考察を交えた初見の感想
以下、舞台となっている「九龍城砦」の歴史的事情などをざっくり知っている程度の初見マンのうろ覚え箇条書き感想ですが、お付き合い下さいますと幸いです! もし事実と異なる記述がある場合は訂正しますので、ご指摘くださいませ!
また、原作での設定などは全く知らないので作中の表現に対しトンチンカンなことを言っている可能性も大いにございます。それはそれでまぁ面白いのではないかと思いますので、ご笑覧くださいませ。
・序盤の印象「全員の能力を体力に全振りした、血の気が多すぎる千と千尋の神隠し」
・冒頭のクラブでの賭け格闘シーンが一番見ていて痛かったかもしれない ガラス片の上を引き回すのマジで勘弁してほしい 痛々しいダメージ描写に耐えられるか不安だったが、見ているうちに慣れてきたことに加え、演出面のバランスが良かったのだと思う 必要以上に傷口を見せないことと、サウンドエフェクトが大袈裟な音だったおかげで大丈夫だった 音の演出はおそらく、わざと生々しすぎない漫画的な表現を採用しているのだと思う 助かる
・二階建てバスにイギリス領の香りを感じる 香港が中国に変換された今でもなお香港の主要な交通手段らしい
・違法建築なのでコンクリートが人体より脆いのは当然の現象である
・公営住宅に人が移って空いた部屋について龍兄貴が話していた際、「風水がいいから直さなくていい」というようなことを言ったのは、修繕の手間とかジョークではなくて本当に風水が良かったからなのかもしれない 「あそこに住んだ人がまともな形で外に出られた」、これはとても縁起が良いことなのだと思う 実際、そこに住んだ陳洛軍も結果的に九龍城砦から出ることができた しかしそれが望んだ形ではなかったのが悲哀
・信一のシャツにネクタイなどの服装の傾向に龍兄貴への憧れを感じる(カブト氏いわく『メッチャ好み』)
・「眠れるのは場所のおかげじゃない」、これを言われるまで気付けなかった陳洛軍の今までの生活を思うと切ない 信頼できる人に囲まれている環境がはじめてなので何もわからないんだ…
・「陳」を名字にもつ者は実際にもかなりの人数がいるので、カタキと主人公が同じ苗字だとは思ったが一々ツッコミいれるようなところでもないと思い普通にスルーしてしまった
・秋兄貴の、憎しみを向ける相手だけではなく、その一族までを憎むパワーがあまりにも強すぎる 事情が事情だけに仕方ないっちゃ仕方ないんだけども、一般的倫理観としては非常に理解しがたい 後述します
・龍兄貴がシャッターの向こうで絶命するであろう時に信一は「行くぞ」と言えた それを言えるからこそ彼は龍兄貴に次のボスに選ばれたのだ
・どうせここは場所も人も全部なくなっちゃうのになんでみんなこんな必死なの…? 義と矜持だけでこんなに限界まで戦えないよ…
・あれだけ必死に欲しがった身分証明証を、自分の忌々しい出自が証明となって受け取ることになった際の陳洛軍の気持ちたるや
・回復はやくない? この千尋、さすが体力に能力全振りしてるだけある
・ボロボロになった麻雀面子3人を訪ねたシーン、この映画の中で一番緊張しながら観ていたかもしれない 自分のせいで全てを失った人たちのところにノコノコ行ったところで、普通なら罵倒されるだけである だというのに信一も四仔も十二少も、陳洛軍に負の感情を抱いているどころかあの温かい再会である 友情の閾値が狂ってます
・十二少が脚をやられた後で紐術スタイルになったのは、自分から踏み込めなくても相手と自分の間合いをコントロールできるように習得したのであろう
・信一の使うナイフの形状も、欠損した指でも操れるようなものに変わっていた しかし紐術も変化ナイフもあんな短期間で易易と習得できるものではない おそらく3人とも、あんなボロボロになりながらも戦うことを諦めず鍛錬を重ねていたと思われる
・虎兄貴が「3人は死んだ」と言っていたのはダブルミーニングであろう 地位や場所を失った状況としての「死んだ」と、「死んだ」という扱いで逃がす方便にしたのだと思う
・私はデビルメイクライをプレイしたので知っている、バイクは武器だということを
・九龍城砦の状況で理髪店を営むのは難しいと思う 散髪や髭剃りは清潔な水と刃物がないとできないようなことである しかし人間として清潔を保ち、文化水準を上げるには重要なことの一つだと思われる それを龍兄貴が続けていたことに、彼が九龍城砦の住民の人間としての暮らしの質を上げる=幸福を願っていたことを感じる
・九龍城砦内は確かに貧しくはあるのだが、仕事に対して給料はしっかり払われている様子が伺える みんなが靴を履けていることのも最低限の文化が守られていることを感じる それに対して冒頭、外の世界では大ボスに騙されてタダ働きさせられていた それぞれの場の統治者の方向性が伺える
・ずっと格闘だったのに最後に王九たちが銃を使い出したが、あの理由は削除シーンのおかげで理解した(特典映像の削除シーン付きの上映を観に行きました ほんと子どもを痛めつけるのだけは勘弁してほしい…) 王九が九龍城砦を仕切るようになり銃を敷地内に持ち込むようになったという流れのようだが、いままでは龍兄貴たちが九龍城砦内に銃を入れさせないことを徹底していたのであろう
・最終決戦での陳洛軍、武器チョイスがシブすぎない? 鉄槌2つ? 大勢を相手するんだからもう少し軽くて長時間使えるようなものにしたほうが効率よくないですか? 体力どうなってんの?
・気功は呼吸方法で操るものだからこそ、刃で気道が傷ついたことにより呼吸が乱れて敗れたと考えられる もし気功使いと対峙することになったら参考にしましょう
・最後に王九にとどめを刺すのが主人公の陳洛軍ではなく、同じく組織のナンバー2を務めていた信一が決めるのが、それぞれの組織の絆の対比になっていて良かった 陳洛軍としてはそれこそ「勝つ時は全員一緒」であれば本懐なので
・九龍城砦上空を飛ぶ飛行機がとんでもなく低空飛行でハラハラする 演出の一環なのかと思ったが、実際に当時は九龍城砦近くに「啓徳空港(旧空港)」があり、本当にあのくらいの距離で飛んでいたという話を聞いた 航空法では空港周辺の建造物に対し表面状況が制限されている筈なので調べてみたが、啓徳空港の飛行区域内は「14階又は45m以下の高さ規制」だったらしい 九龍城砦の末期は最高15階建ての建築があったそうなのでダメっちゃダメだが、各階層が低かったので45m以下には収まっていたっぽい ツッコミどころの多い話である
・決着がついた後に4人が九龍城砦から街を見下ろしているシーンで、取り壊しについてのテロップが出るのが美しかった 全ては無くなったが、人の営みは確かにそこにあったのだ
・今回の九龍城砦をはじめ、スラムが表現されたものを見るときに不潔さと共に感じる不思議な魅力というのは、おそらく生命力の一種なのだと常々思っている 不潔さというのは生命が存在するから発生するものであり表裏一体のもの
・「トワイライト・ウォリアーズ」というタイトル内の黄昏というのは、単純に黒社会を黄昏と表現していることに加え、九龍城砦という場所が終わりゆく状況のことを黄昏とも表現しているのかもしれない 他にちゃんとした意味あったらすみません
・アクション映画の括りでありつつ、消えゆく九龍城砦という空間への鎮魂と、そこで生きた人々の「営み」に対する敬意と愛情がこめられた作品だった
・パンフレットを買って開いたら敵味方全員が理髪店でキャッキャしてる見開きの写真ページがあった これはアレに似てますね 洋モノAVのスタッフロールで出演者全員がバーベキューをしている様子を流して「みんな合意で楽しんでます」という証明にするアレに似てます ※AVについては教養としての知識しか無いです ほんとほんと 信じて
以上です! 良い映画でした👍️
ここから下はおまけコラム的なものです✌
なぜ親への復讐手段として子の命が狙われるのか
トワウォの主題とはズレますが、「親の罪は子にも受け継がれている、親に対して復讐する手段として子供を殺すこともある」というのが現代人の倫理観としてはよくわからない思考だったので、少々掘り下げてみました。 舞台が大陸ですので、儒教などの「尊属をかなり上位のものとして扱う文化」の考え方と関係があるのかと予想しつつ、調べたことをメモしておきます。
現代の中国社会において、これらは主流の倫理観ではないようです。 しかし、歴史的・文化的にはこのような思考の存在もあり、それは儒教や古代法、戦乱の時代の復讐文化などと関係しているそうです。
- 親の罪が子に及ぶという考え方の起源
【法的・制度的背景(古代~近世)】
中国の歴史上では、特に秦や漢の時代から「連座制」や「族誅(ぞくちゅう)」といった制度が存在した。
→ 反逆罪などの重罪を犯した場合、家族や親族までも処刑・追放・連行されるというもの
例えば、唐代の法律(唐律)では、国家に対する大逆罪や叛逆の場合、三族(祖父母・親・子)や九族(親戚一同)を処罰対象とすることもあったとのこと。
- 儒教との関係性
儒教は基本的には忠(国家への忠義)と孝(親への孝行)を重んじる思想であり、「連座して子を殺す」こと自体を是とするわけではない。
しかし、儒教的世界観では「子は親の延長線上にある存在」であり、親が悪なら子も悪に育つ可能性があるという見方が一部存在した。(子は親の名誉・徳・罪までも引き継ぐという観念)
加えて、個よりも家(家系・血筋)を単位とする文化が強く、個人責任よりも家の名誉や罪が重視される傾向があった。
そのため、「親が大罪人であれば、その子も疑ってしかるべき」という思考は、特に前近代中国では決して珍しいものではなかったようだ。 - 現代における変化
現代の中国(中華人民共和国)においては、連座制は存在しない。
個人主義の浸透、法治主義の確立、教育水準の向上により、「親の罪は親のもの、子は関係ない」という近代的な価値観が一般的になっている。
ただし、文学や映画などのフィクションの中では、こうした“古い復讐倫理”が劇的効果として使われることがある。
戦乱の時代や武侠小説の中では、敵の一族郎党を皆殺しにすることで仇討ちを完遂するという描写が多く見られる。
(相手一族の誰かを残していたら、いずれ仇として復讐される可能性がありますもんね🤔 倫理的にはひどい話ですが、実利的ではあります)
というわけで、古代から近世にかけての復讐文化的にはあったものの、現代ではこのような価値観は法的にも倫理的にも支持されておらず、主に歴史的・文化的背景としてフィクションなどに見られるのみということのようです。 価値観のアップデートは大切ですね👍️
九龍城砦内に無免許の医者が多く存在した件
写真でお見せした九龍城砦の図説本に目を通した際に、おおよそ下記のような旨の記述がありました。
九龍城砦内には大勢の歯医者や医者がいたが、医師免許を持っていなかった。彼らはロシア語で教育を受けていたため、香港で医師免許を取ることができなかった。医者としてはしっかり教育は受けていたものの、無免許となってしまったのだ。
ということは、中国内でロシア語教育がされていた時期と地域があるのでしょうが、なぜそうなったのでしょうか。気になりましたので、こちらについても少々調べてみました。九龍城砦の「医療の闇市」的な側面と、東アジアの冷戦史のお話です。
■なぜ中国でロシア語教育が行われたのか?
【中ソ友好時代(1950年代)】
1949年の中華人民共和国成立後、中国はソ連を信頼し、政治・経済・軍事・教育の多くの面でソ連式のものを採用した。
この時期、ソ連との国交強化の一環として、ロシア語教育が国家的に推進された。
・高校・大学・専門機関の第二外国語がロシア語に統一
・医療・工学・物理など多くの分野での、ロシア語教材による教育の実施
・中国の医学生がソ連や東欧に留学するケースの増加
ロシア語教育が行われた主な地域は次のようなところだそうです↓
・ハルビン(黒竜江省)
ロシアとの国境に近く、満洲時代からロシア人コミュニティが存在。
ロシア語を母語とする「白系ロシア人」や、中国籍だがロシア文化に通じた家庭出身者が多く、医学・技術者養成機関も存在。
・長春、瀋陽など満洲地域
日中戦争後、満洲は一時ソ連軍が占領し、その際の人的交流も影響。
・北京、上海などの高等教育機関
エリート教育の一環で、ロシア語を必修外国語として導入した大学が多数。
【中ソ対立が起きるまで(1960年代前半まで)】
この中ソ友好期は1950年代中盤から後半にピークを迎えるが、1956年のフルシチョフによる「スターリン批判」以降、思想の違いが表面化し、1960年にはソ連が中国から全技術者を引き上げる「中ソ対立」に突入。
しかし、それまでに大量の人材がロシア語で専門教育を受けていた事実は残り続けた。
■ロシア語で教育された医師たちの「資格問題」の壁
当時の香港はイギリス統治下で、医師資格もイギリス式(英語での試験と英語文献の読解)が基本条件だった。
一方、大陸から逃れてきた人々の中には、ロシア語で高等教育を受けた医師が多く含まれていたため、下記のような問題で正式に医師免許を取得することが難しかった。
・英語力の不足
・ロシア語文献ベースの知識が香港の試験と一致しない
・そもそも「共産圏出身の資格」は西側で認められにくい(香港の資格制度と不適合、冷戦下の政治的背景)
せっかく一生懸命勉強してきたのに行政の巡り合わせでそれが報われないだなんてつらすぎます…
そんな彼らがたどり着いた選択肢が九龍城砦!
九龍城砦は中英どちらの行政権も及ばない法の空白地帯だったため、無免許で医療行為を行っていても摘発されにくく、それを求める低所得層の市民にもニーズがあった。結果として、「しっかりした医学知識を持つが制度的に資格を取れない医師たち」が砦内で歯科・内科・婦人科などの診療所を開くことになった。
…というわけで、九龍城砦にいた「無免許医師」達は免許が無いからといって決して素人ではなく、冷戦期の政治と制度のはざまで行き場を失った、教育を受けたプロフェッショナルが多く存在していたと予想されます。 しかしまぁ、どさくさに紛れてとんでもないヤブ医者も混ざっていたことでしょう。
トワウォ作中だと四仔がお医者さんとして活躍しますが、セリフの端々から察するに彼も難民のようですので、彼の場合はまた違ったケースだと思われます。どこで医療技術を身につけたのかは不明ですが、九龍城砦内にいた「免許が取れなかっただけのちゃんとしたお医者さん」から習った可能性もありますね。(原作などでそのあたりの設定がすでに判明していたらすみません)
ちなみに中国医学界では、一部の文献が今でもロシア語翻訳を経由したものがあったり、旧ソ連式の教育を受けた世代の医師が国内の古い医療制度に影響を与えているという見方もあるとのことで、現在も影響は色濃く残っているようです。
お付き合いありがとうございました
気になったことを調べていたら長くなった上に、おそらく皆さんが求めているような感想でもないような方向に流れてしまいましたが、個人的には香港にまつわる近代史を改めて確認する機会を得てすっきりしました。
香港映画をちゃんと観るのは初めてでしたが、アクションもキャラも舞台背景もキマっている素敵な映画と出会えて良かったです。激推ししてくれたちょびちゃんに今一度の感謝を申し上げると共に、トワウォがお好きな方々にとってこの記事が少しでもカロリーのあるものになっておりましたら幸いに思います。そう、叉焼飯のような高カロリーに…!
もう一度貼っちゃいます

美味しかった!!!!!!!!
イラストや漫画を描く個人「えぷと」です。同人誌即売会イベントに、男性キャラ中心の漫画やグッズを頒布するサークル「へこめ!鳩尾…。」として参加しています。たまに動画制作やコスプレもします。